北海道大雪山系 トムラウシ山 大量遭難を考える。 考察⑥ 山の計算(状況判断のダイナミズム)、ツアー登山の現実

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トムラウシの遭難が起こって以来、いろんなホームページを拝見させていただいておりますが、この山を今の時期に登りに出かけられる人は、このような風景に出会いたくてはるばる北海道まで出かけられるのだなと、感じました。
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考察⑥ 山の計算(状況判断のダイナミズム)

さて、本題に入って、天候予測、メンバーの体力、想定されるルートの困難性と、体力の消耗の度合い。
安全圏にたどり着くまでどのくらい、体力や、時間が必要となるか、引き返す場合の、ルートの状況と必要とされる体力の度合い。
行動中の、天候変化の予測、などなど。

こういったさまざまな不安定要因を踏まえてなされる山の計算(状況判断のダイナミズム)というのは、いわゆる冒険的な登山にあっては「登山の楽しさ」そのものであり、登山に非日常性や、困難性、危険性を求める人は、そういったところに心を満たしてくれる何かを見出して山に向かっているのであろう。

しかし、ガイド登山・・それも、安全性が何よりも求められる尾根歩きのツアーのような場合は、ツアー客はスリリングな山の計算(状況判断のダイナミズム)を楽しみに来ているのではないのであり、山岳雑誌に載っているような広大な展望や、お花畑に咲いているめずらしい高山植物を眺めに来ているのである。

だから、そのようないわば花鳥風月を楽しむようなお気楽ツアー登山においては、冒険的な登山よりもずっと安全に振ったツアーガイドの山の計算(状況判断)が求められる。そのような尾根歩きツアーにおいて、ツアー客を危険な状況にさらすようなことは、ガイドとして恥ずべきことであり、断じて自慢にはならない筈である。
車にたとえるなら、安全志向が強いファミリーカーで、峠を攻め、レースに出るようなものであり。自転車にたとえるなら、ママチャリで、ロードレースに出るようなものである。

そういった見地から、今回のツアーガイドが行った状況判断をシュミレートしてみよう。
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16日早朝に、ヒサゴ沼避難小屋を出発するべきか否か?

とあるツアー会社の、ツアー広告をのぞくと以下のようになっている。

大雪山旭岳~トムラウシ山縦走 五日間
歩行距離&時間目安(①~⑤は日にち)
①羽田(9:00頃)・千歳又は旭川・・旭岳温泉【泊】〔--夕〕
②旭岳温泉・・・・姿見駅(1600m)・・・旭岳△一等三角点(22290m)・・・間宮岳(2185m)・・・北海岳(2149m)・・・白雲岳(2229m)往復・・・白雲岳避難小屋・テント【泊】〔朝-夕〕(約12km・約8時間)
③・・・高根ヶ原・・・忠別岳(1962m)・・・五色岳(1868m)・・・ヒサゴ沼・テント【泊】〔朝-夕〕(約16km・約9時間)
④・・・トムラウシ山△一等三角点(2141m)・・・短縮登山口(965m)・・トムラウシ温泉:東大雪荘【泊】〔朝-夕〕(約15km・約7時間
⑤・・帯広又は千歳・羽田(18:00頃)〔朝--〕
http://www.alps-enterprise.co.jp/tour_info572.html

この予定表によると、今回とほぼ同じ日程であり、遭難事故が起こった第4日目(④)は、歩行距離は約15キロで、歩行時間は約7時間とある。
実際は、家族5人のファミリーハイクが晴天時に10時間かかっている行程(休憩込み)である。であるから、この7時間というのも、休憩を含めると、10時間と読むべきなのであろう。
さらに、晴天で、10時間であるので、雨天の場合もっと時間がかかるであろうし(例 12時間ほど)、暴風雨といった荒天となると更に余計に時間がかかるであろうこと(例 15時間ほど)は明白である。

ところで雨天や、暴風雨になると、行動時間が余計にかかるだけでなく、疲労の度合いも高くなる。

いちばん疲労の度合いが低いのは、晴天時であり、次に、雨天、そして一番疲れるのが、暴風雨のときである。
晴天時に10時間歩くのと、暴風雨のときに15時間歩くのとでは、要求される体力レベルがもうケタ違いであることは、すこし山をやったものなら誰にだって分かることである。

そうすると、16日の早朝は、かなりの荒天であったので、予想される時間当たりの疲労度が一番高い天候であったわけだ。

ここで考えられる行動パターンは三つ・・。

選択肢① 停滞する。
※悪天候で危険であるから今日は停滞する。

選択肢② 出発する。
※今日下山する予定であり、宿や飛行の予約なんかも入っているので。計画通りに行動する。
 
選択肢③ 途中まで行ってみる。
※途中まで行って悪天候が続く場合は引き返す。

・・ところで、気付いてほしいのは、当日が、もしミエミエの悪天候であったら、誰だって①を選ぶであろう。16日は、実に微妙な天候(もしかしたら、天気が回復してくれるかもと、期待を抱かせるような、フェイントをかけるような天気)であったからこそ、何パーティかがフェイントにひっかかり行動に出て、3箇所で合計10人が命を落とすことになったわけである。

つまり、相当に16日早朝の天候判断は、難しかった!ということが言えるだろう。

では、③途中まで行ってみる!を選ぶべきか?
これは妙案であるが、問題は、途中まで行ってダメだったらどうするのか?ということである。

その場合、
③A 引き返す。
③B 適当なところでビバークする。
・・の二つが選択肢として考えられる。

もっとも、③A 引き返す。 といっても、15キロの行程中、10キロも行ってから引き返すというのはナンセンスであり、せいぜい3分の一の5キロがリミットであろう。
歩きやすさも含めると、荒天で15時間かかるとして、5時間歩いて、天気の回復が認められない場合には、引きかえすとする。これが、③A の射程範囲である。

しかし、さらに、翌日のことを考えると、5キロ、5時間歩くというのは、復路もいれると、合計10キロ、10時間歩くことになり、それだけ疲労を残すことになり、ひいては翌日の行動に支障をきたす。

それを踏まえれば、せいぜい2キロ~3キロ歩いて、時間にして2時間ほど進んでみてそこで天候回復が見込めなかったら引き返す、とするのがよい。それならば、歩行距離は、往復4キロ~6キロに抑えられるし、行動時間も4時間程度に抑えられる。

(ちなみに、それ以上進んでしまったら、もう後戻りはできない・・。ビバーグをして前に進むしかなくなる。・・この場合、天気が回復してくれれば、「ラッキー!」であるが、そうでないと非常に苛酷な登山となる(実際は、非常に過酷な運命が待ち受けていたのであるが・・。))

山の計算をしてみると以上のような思考経過をたどりそうである。

・・しかし、ここで、問題は、そういう賭けの要素がある登山を、尾根歩きの、広大な展望と、お花目当てのガイド登山で行うべきかということである。

花鳥風月登山においては、より、安全に振った登山が目指されるべきであり、そういった見地からは、選択肢①が優先的に選らばれるべきであり、もし万が一選択肢の③を選ぶにしても、③Aが絶対に選択されなければならないだろう。

それを思うと、今回のアミューズトラベルのツアーガイドは、いささか冒険的登山に振ったツアーガイドを行ってしまった(無理をしすぎた)と判断せざるを得ないであろう。

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ツアーガイド登山の現実

上に書いてきた山の計算(状況判断のダイナミズム)というのは、登山を成功させるための、ごくごく通常の思考経過である。
ところが、現実のツアーガイド登山となると、そういった現場の状況に応じた臨機応変な行動が取れないそうだ。ツアーガイド登山に多数参加している知り合いからいただいたmailを引用する。

「(ツアー参加希望者を)どこで足切りをする基準は年齢だけですね、体力、技術は勘案されません、お得意様はお目こぼしあるかも(毎日旅行で10数回のツアー参加経験あり)。

今回の遭難は、(事故)と言うより大量殺人か、避難小屋での停滞は先ず考えられません、帰りの飛行機を抑えてあり予備日も無く延ばしはできません。

皆さんそれぞれ事情があり、旅行会社の雇われガイドに自己判断をして旅行会社の計画に背くのは自分の職を失うことになります。

山の機嫌のよい時に登らせれ頂く サガルマ-タ冬季南西壁を登ったスポニチ登山学校 尾形好雄校長の教えです。
天気が良ければ半袖でも歩けてヨカッタヨカッタと楽しい思い出ができたのに残念でなりません。

それと避難小屋に二泊ジジバハが寝袋、マット、スト-ブ、鍋はガイドが持っても食糧は各自(荷物はなんキロ?)これだけのロングを歩くとなるとそれなり体力、気力がジジババにも求められます。行きたい山と行ける山は違います。」

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One Response to 北海道大雪山系 トムラウシ山 大量遭難を考える。 考察⑥ 山の計算(状況判断のダイナミズム)、ツアー登山の現実

  1. swanslab says:

    silvaplauna様

    何度もコメント欄を汚して申し訳ございません。

    登山のリスクマネジメントはおよそ3つの構成要素から成り立っています。
    ひとつはルート評価、第二に天気・進め方の戦略、第三にパーティ評価です。

    ルート評価について。ルート上に障害物があればどうすればいいか。これは天候や霧などの視界、積雪も含めての評価です。このシミュレーションは距離や時間読みも含めて事前の登山計画で十分作戦を練ることができます。リーダーは現場で臨機応変に考えるのではなく、事前に頭に叩き込んだ答えを現場で当てはめればよいのです。
    たとえば増水した川を渡渉するルートを想像してみましょう。正解はひとつしかないのです。渡れる水量を事前に決めておくことです。いけるところまで進み、だめなら戻ろうという現場の判断はもっとも忌避すべきことです。なぜなら、いけるところまで進むということは流されるところまで進むということだからです。

    第二に、天気判断・進め方・停滞日の設定について。
    実際にパーティがどのような天候であればぎりぎり行動できるか、についても事前に検討することが可能です。というより、このような判断を現場で臨機応変に、あるいは直感的に判断するべきではありません。行動可能な視界、風、気温についてはある程度定量的な基準を設けて、割り切って登山計画に盛り込んでしまうのがベターです。たとえば「フードで顔を押さえるような強風と雨の行動はしない」などです。なぜなら、天気の判断などというそもそも人知を超えた判断は、予防原則にのっとって安全側にたっておくべきからです。現場で余計なことを考えるべきではありませんし、現場の人間がどういう戦略をもっているかについては第三者に対しても登山計画などで共有すべきことです。山の中で判断すべきことは少なければ少ないほど安全なのです。

    第三にパーティの評価。
    現場でリーダースタッフが思考を集中すべきはここです。
    計画上のルートファインディングも天気判断もすべて現場のリーダーの判断になるわけですから、計画が絵に描いたもちにならないためには、これらを判断できる能力がリーダーに求められる要求水準となります。
    また刻々と変化するパーティの状況(体力の消耗や装備など)をリーダーは常に把握する必要があります。これは現場の判断にならざるを得ません。

    体力がわからないなどパーティの評価に不確定要素が多い場合は、行動できる天気基準・進め方・停滞日の持ち方に余裕を持たせる、というのが基本的な登山のリスク管理の哲学です。逆に言えば、攻撃的な登山とは、天気読みをある程度はずしたとしても行動できるパーティ評価をするということです。

    ですから、現場での天気判断が難しかったとかいうのは、実はマヌケな話であり、それ以前に、パーティ評価についての計画上の不備があるわけです。
    それでも、パーティに予期しない異常行動が発生するケースもありえます。
    冬山ではよくあることですが、いままで元気に歩いていたメンバーが突然電池の切れたロボットのようになる、など。これが最終判断地を超えた地点で発生すれば取り返しのつかない事態に発展します。ここではじめてリーダーの真の登山センス・才覚が試されるわけですが、通常はそんな属人的な思考はしません。組織として行動する以上は、リーダーの個人的な才能に頼るべきではないからです。組織登山に冒険はありえません。
    本来、このような登山計画は企画会社で共有されるべきでした。ガイドをアウトソースするリスクのおぞましさを今回思い知らされた気がします。

    なぜこのようなことをぐだぐだと書き汚しているかといいますと、こうしたロジックこそ、ガイドの一人である多田くんのかつての出身母体の山岳クラブが共有していたリスク管理の手法だったはずだからです。

    私がこの事故のニュースの第一報を聞いて愕然としたのは、いったいなぜ彼らはこんな判断をしたのだろうか、ということでした。とくに多田くん。私はそれをなにより、多田くんに問いたいのです。できれば、死人に口なしで、吉川さんにすべての責任をなすりつけたい悪魔の誘惑が私のなかですらあります。つまり多田くんは主体的に判断できる立場にいなかったのではないかと思いたいです。しかし現実はそうではなさそうです。多田くんの口から真実が語られるのを今は待つのみです。
    しかし、正直なところ、8名の命を失ってしまった今、彼の胸中を思うと本当にいたたまれなくなり、真相究明もさることながら、彼がはやまったことを考えたりしないかとても心配でたまりません。

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