トレイルでの「速さ」の可視化、透明化の試み

回想録1  — この記事は、内容的に真新しいものではなく過去の記事を振り返って、分かりやすく説明しなおしたものです。—

5~6年前?或いはもっと昔?立川の駅ビルのスポーツ用品店にジョギング・シューズを買いに寄ったときの話し、お店の一角に丈夫そうな靴が置いてあって、脇に、○◇△×選手が「日本山岳耐久レースで使用したモデルです。」等と書かれたPOP板が置いてあった。
山を走る靴かぁ・・と思うとともに、あのレースがこんな形で有名になっていることに驚いた。

ハセツネの記事を書き始めた頃は、石川選手をはじめトップ選手の走りが「謎」であった。いったいどこをどう走ると、浅間峠まで2時間30分で行けるのか?
雑誌や、お店には石川選手が障害物をジャンプしている広告写真があるので、石川選手はじめトップ選手は下りは、天狗のように歩幅5m以上にジャンプして下るのか?・・等と真面目に考えていた。

しかし実際は、天狗のように飛びながら走るのではなく、せいぜい講習会で教えていただくようなごくごく普通の走り方で走っているのであるが、それで浅間峠まで2時間30分で行けるのは、トップの選手はいわゆる最大酸素摂取量が高いからである。
最大酸素摂取量が高ければ、淡々と走って2時間40分ほどで浅間峠まで行けるそうである(陸上自衛隊大宮駐屯地第32普通科連隊の選手の方々に伺った話し)。
(この最大酸素摂取量と言う基準では今ひとつ漠然としているならば、5000m走のタイムを基準に考えればよい。すなわち5000m走が16分前後の選手ならばさほど無理せずに2時間40分で行けるそうである。)

こんな風に、ある程度の技術を持っていればあとは、速さは、その人の「最大酸素摂取量」次第である。どんな技術を持っていても、その選手の「最大酸素摂取量」以上のタイムを出すことは出来ない。
よほどの初心者でない限り数年経てば、見たり聞いたりして皆そこそこの技術を持っている筈である。持っている「技術」を「速さ」に結びつけるのは、「最大酸素摂取量」である。(分かりやすく言うと、5000m走の速さ次第だと言うこと。)

まとめると・・

技術+最大酸素摂取量(5000mの速さ)=トレイルでの基本的な速さ

となる。この他にレースの長さに応じて、速さを維持できる持久能力が必要になるわけである。

あのレースにひきなおすと、以下のような図表が出来上がる。
Hasetsune Formula Ⅱ

5000m走のタイム   第一関門目標  タイム比率 1:0.95:1.3  ゴールタイム

5000m 15,16分  2時間40分   160:152:208   total 08h40min
5000m 17,18分  3時間10分   190:180:247   total 10h17min
5000m 19,20分  3時間40分   220:209:286   total 11h55min
5000m 21,22分  4時間10分   250:237:325   total 13h32min
5000m 23,24分  4時間40分   280:266:364   total 15h10min
5000m 25,26分  5時間10分   310:294:403   total 16h47min

※注 いずれも余力を持たせたタイムです。
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結局、こういう風に図表化することで、トップ選手のいわば「神秘のヴェール」を剥がすことが出来る。もちろん、トップ選手の「速さ」を皆が実現できるわけではないが、少なくとも頭で把握することが出来るようになるわけである。

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5 Responses to トレイルでの「速さ」の可視化、透明化の試み

  1. 駄馬 says:

    んーん、筋肉の特性も考慮に入れないといけないのでは?
    平地ではキン持久力が、登り下りでは瞬発力も必要になると思います、キンは筋です。

  2. silvaplauna says:

    駄馬(こと村松) さま

    貴重なコメントをいただき有難うございます。

    ご存知の通り「筋持久力」というのは多義的ですが、ざっくばらんに書きますと。
    私は、筋持久力とは、長距離または長時間の運動に耐えられる筋力の特質を指すと考えております。そして、平坦なところのみならず、登りや下りでも筋持久力は要求されていると考えます。(同様に、瞬発力と言うのも、登りや下りのみならず、平坦なところでももちろん必要になってくるのだと考えます。)

    その観点からすると・・ハセツネではせいぜい5キロの荷物、トランスジャパンでは、せいぜい10キロほどの荷物を背負えば用は足りる訳です。

    5キロ、10キロ背負って山道を走ったり、早歩きで尾根を登ったり出来る筋力(厳密に言うならば「瞬発力」になるのかな?)を養うことはさほど難しいことではないと考えます。

    むしろ問題となるのは「耐久力(厳密に言うならば筋持久力)」で、5キロ、10キロ背負ってどのくらい長い距離または時間を走ったり運動し続けられるのか?

    この「耐久力(筋持久力)」の問題解決のためには、実際に5キロ、10キロの重荷を背負って、コースで要求される距離をこなす、時間をこなす、そうやって身体を慣らしてゆくことが必要になると考えます。

    その身体を慣らしてゆく過程は、ちょうど筋力トレーニングの過程に似ていて発想を利用できると考えます。

    つまりこの場合は、筋トレでの「負荷」を「距離」または「時間」に置き換えて順次高負荷(すなわち「長距離」もしくは「長時間」)を身体にかけて、レースまたはコースで要求される負荷(すなわち「距離」または「時間」)に身体を慣れるまでレベルアップして行くことになるのだと考えます。
    (よく言われる「オーバーロードの原則」での重荷の負荷を「長距離」、「長時間」に置き換えると理解しやすいでしょう。)

    まとめますと・・
    軽装を旨とするトレイルランにおいては絶対的な高負荷(どれほどの重荷を背負えるかと言うこと、あえて表現するならば「瞬発力としての高負荷」)は不要でしょう(せいぜい5キロ、10キロ背負って走ったり、早歩きが出来ればよい)。

    むしろ筋持久力としての高負荷(すなわち、どれほどの「長距離」を走れ、またどれほどの「時間」運動し続けられるか?)というのが、トレイルランでは必要になるのだと考えます。

    アメリカのレースでは、160キロものレースがあるそうですので、まさに、そのようなレースにおいては筋の瞬発力よりも、筋持久力そのものが問われるものと推察いたします。

  3. トレイルレ-スにかかわらず、一般に「速さ」の定義が漠然としていると思います。
    100mで速いのか、10kmか42kmなのか。それとも100km?500km?。また環境は山なのか、舗装路なのか。どの場面を切り取って「速い、遅い」を言うのか。そのあたりを考えないと「速さ」を云々するのは難しいかなと思います。
    ここでの話題を50km~80kmのトレイルレースと限定的に考えて見ましょう。(トレイルランなら速さの問題は関係ないでしょうから)。
    私が筋持久力のことに言及したのは、個体差について言いたかったのです。人間の持つ筋肉の組成は、すべての個体より異なっています。特に遅筋と速筋の組成比率は遺伝的要因により決定されると言われています。変異もありますから例外もあるでしょう。ですが、この組成比率は変えられないわけですから、個体差はどちらの筋肉が発達しているかによって生じてくると思います。
    つまり、小さい頃に走る(短距離)のが速い子は速筋繊維がおおいわけで、そうでない子は速筋繊維が少ないわけです。どちらの筋肉も練習によって鍛え発達させることができます。とくに速筋は筋断面が大きいほど大きな力を生むわけですから、バルクのある筋肉に成長します。解糖系で作られたピルビン酸と乳酸は筋肉中のミトコンドリア内(クエン酸回路)でエネルギーに変換されますが、乳酸をエネルギー化するミトコンドリアは遅筋内に存在し、速筋内にはないわけです(このあたり先日のランニング学会で東大の乳酸博士の講演より)。加えて、遅筋は大きな力を生まない代わりに疲労しにくく、速筋は大きな力を生むが疲労しやすい(が回復が早い)という特性があります。
    <このあたりもっと詳しい説明ができる方がおられませんか?>
    具体的には、同様に練習を積み鍛えられたランナーが、長距離のトレイルで坂道を走っているとします。速筋繊維が多い人は、遅筋繊維が多い人より運動の継続可能時間が短くなります。乳酸をエネルギー化する力が劣るわけですから、分解変換しきれない乳酸があふれ呼吸を阻害するわけで、休まないといけなくなります。ですが、遅筋比率の高いランナーは同様の程度でも継続して走ることができます。ですので、当然、所要時間も違ってきます。ですが極端に距離が短い場合や負荷が大きい場合など、逆の結果も考えられます。
    今回、鏑木さんはじめトップランナーの走りを見ていて、これを目の前で実感じました。
     もちろん筋肉組成だけでなく、心配昨日じゃなくて心肺機能も大きな問題です。一般に心肺機能といいますが主に、酸素摂取吸収力と心筋の発達程度、横隔膜筋肉の発達程度、に分けられると思います。まあこれらはけっこう密接に関係していますので、たいていの場合、一括りにしてかまわないのでしょうね。ですが、これらは発達(回復)にけっこう時間差があって、長く運動から遠ざかっていた場合など、バランスを欠く(一括りにできない)時期が場合があると感じています。

    私はいわゆる短距離型です。小さい頃から脚が速く高校の陸上部では100mをコンスタントに11秒前後で走っていました。筋肉量も多いです。つまり長距離にはずいぶん不向きな個体なんです(^-^)。だから駄馬。ですが、マラソンは2時間52分、100kmは8時間32分の自己記録は持っています。どちらも途中で歩きを入れていますが(笑)。
    これらの問題と、自分の好きな種目が自分の特性と合っているかは、別の問題です。私は長距離にはぜんぜん向いていませんが、山の中を走るのは好きです。自分と競争し、自分の足音と呼吸音しか聞こえない森の中を走るのはとても気持ちがいいですから。

  4. すみません、読んでたらタイプミスがありました。
    「解糖系で作られたATP、ピルビン酸と乳酸は筋肉中のミトコンドリア内(クエン酸回路)で」
    の「ATP、」は削除してください。

  5. silvaplauna says:

    村松様

    貴重なコメントをいただき恐縮です。

    私も村松様からいただいたコメントを拝見したときに、遅筋と速筋のことかなと感じたのですが、筋組成まで広げると、話しがややこしくなるかなと思い、あえてそちらに話しを持ってゆきませんでした(汗)。
    (どうしても、こういった議論はこうだからこうだ!と「教条的になってしまう傾向」もありますし・・。)

    ご覧の方にも分かりやすいように簡単にまとめますと・・
    「筋組成において速筋繊維よりも遅筋繊維の占有率が高い選手は、長距離に向いている。 」・・となろうかと考えます。

    具体的には・・同じ状況下でトレーニングをつんできた選手が、スタートしてアップダウンの多い山道を登り、山頂に着いたのちその後ゆるく長い若干のアップダウンがある下りをゴールに向かうといった状況下では、筋組成において速筋繊維の占有率が高い選手は、アップダウンで強く、つまり前半はリードできるが、後半に疲労が出て、遅筋繊維が多い選手に追いつかれる可能性がある。

    かたや、筋組成において遅筋繊維の占有率が高い選手の場合は、前半のアップダウンでは、タイムをさほど稼げないが、後半にタイムを伸ばせて、あわよくば前半でリードされた速筋繊維の多い選手に追いついてこれを抜かせる可能性もある。

    ・・こんな風になりましょう。
    さて、その「長距離」の目安ですが、何人かの方のご意見やデータを踏まえますと、だいたい40キロぐらいまでのレース(ハセツネでいうと、第二関門あたりまで)においては、速筋繊維がモノを言うようです。40キロ以上(第二関門~ゴールまで)になってくると筋組成において遅筋繊維の占有率が高い選手ほど有利になると言えるかなと考えます。(もちろん、後半で取り戻せないほど前半にタイム差が出てしまってはダメなのは当然ですが・・苦笑。)

    つまり、40キロ以上のレースでは、遅筋繊維が多い選手が後半にタイムを伸ばせて有利であるといえましょう。

    さて、今回村松様からいただいたコメントによって以前から気になっていた二つの事柄のヒントが与えられたように感じております。

    二つの事柄と言うのは、間瀬ちがや選手と、鏑木毅選手のハセツネでの、区間タイム比率に関してです。

    以前、ハセツネの71.5キロを三つ 第一区間(スタート→浅間峠までの約22キロ)、第二区間(スタート→月夜見第二駐車場までの約20キロ)、第三区間(月夜見第二駐車場→ゴールまでの約40キロ) に分けて、所要時間の比率を求めようとしたことがあります。

    この場合、第一区間:第二区間:第三区間=1:0.95:1.3 というのが平均的な区間タイム比率なのですが、分析の過程で二つの例外がありました。 

    ①間瀬選手は第一区間と、第二区間の比率がほぼイーブン・・・具体的には、第一区間でかなり飛ばしている。区間比率的には 1:1:1.3 となります。
     
    これは、村松様のご指摘を踏まえますと間瀬選手の場合、速筋繊維の比率が高く遅筋繊維の比率が低いため、後半にタイムが伸びない恐れがあるため、前半で速筋に頼って、タイムを稼いでいると推察されます。

    ②鏑木選手の場合は第一区間と、第二区間、第三区間の比率が、尻上がり的に速くなっている・・・比率的に言うと、1:0.95:1.15 あたり。

    これは、鏑木選手の場合、速筋繊維比率がそれほどでもなく遅筋繊維比率が高いために、アップダウンが多い第一区間はいわば守りのペース、後半に遅筋を生かしてペースを上げている。・・と推察されます。

    ※第一区間(浅間峠、22キロポイント)を鏑木選手はトップに5分遅れて2時間30分ぐらいで通過しています。

    ①、②を踏まえると、自分の筋肉の速筋繊維と遅筋繊維の占有率を分析して、前半でタイムを稼いでおくか、後半に巻き返しに出るか?それとも平均的に1:0.95:1.3で走るかの三つの戦い方があると言えそうですね。

    平均的な組成バランスの方は、1:0.95:1.3 の時間配分で走りきるのがよく、鏑木選手のように、遅筋繊維が多い選手は、前半は自分のペースで守って走り、後半に巻き返す。
    間瀬選手のように(この方の場合はあくまでも推察なのですが・・)、速筋繊維の比率が高い選手は、後半ではそれほど期待できないので前半で時間を稼いでおくのがよい。

    ・・このようにいえると思います。

    ______________________________

    筋組成まで突っ込んで分析し、それを踏まえてレースを戦えばかなり無駄のないレース展開が出来そうですね。

    日本のトレイルレースは現在30キロ~50キロがほとんどで選手の方も、100キロを超えるレースの経験は少ないのが実情です、ですので海外の長距離レースの経験が豊富な村松様のご意見は大変貴重なものです。

    鏑木選手が後半に強いのは、筋組成において遅筋占有率が高いからなのですね。海外の有名なレースはみな100キロ以上のレースなので、海外のレースを目指される方は、遅筋占有率が高いと有利といえるでしょう。

    知り合いの原始人ランナーさんは、村松様と同様の短距離選手あがりのトレイルランナーなのですが、数年かかってようやく日の目をみるほどトレイルでも速くなってきました。やはり、トレイルが好きであるといった熱意とかのメンタル面も日頃のトレーニングを支えてくれるのでかなり重要なのだと感じています。

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